傘をさしかけてくれたのは
佳子ちゃんのだんなさま…
としあきお兄ちゃんだった。

「風邪ひくよ」

あたし、あいさつもしない
いやな子だったのに…おぼえててくれたんだ。


濡れた服がかわくまで、あたしはとしあきお兄ちゃんの
シャツをきせてもらった。
ここが、佳子ちゃんとお兄ちゃんが暮らしてる部屋。
なんだかおちつかないな。

「お兄ちゃん……
 佳子ちゃんは、幸せ?」

ずっと思ってたことをあたしはたずねた。
むかしは、結婚したらおとこのひとはお嫁さんを幸せに
しなくちゃいけなかったんだって…古い本で読んだ。
でも…

「さあ、それは…佳子に聞いてみないと。
 でも、少なくとも俺は彼女を幸せにして
 あげたいと思ってる」
お兄ちゃんはこまったように笑いながら答えた。
あたしはそれでちょっと安心した。
だってあたしのお母さんはちっとも幸せじゃない。
お母さんは三人のお姉ちゃんとあたしのほかに、あとさんにん赤ちゃんをだめにした。
あかちゃんをいっぱいつくるとえらい人からほめられて、おうちや車やお金がもらえる。
だからお父さんはお母さんにとても無理をさせて、それでお母さんはおなかをいたくして、
24歳で赤ちゃんができなくなってしまった。
……どうして、女の人はこんなにむりをしなくちゃいけないんだろう。

「ゆっくり滅びていくなら、それでもいいんじゃないかってたまに思うな。
 君みたいな子を見てるとさ」

お兄ちゃんは言うけど…わかんない。あたしは『ほろびる』のなんていやだもの。
でも…じゃあどうすればいいのか、わかんない。

駅前のスーパーで、としあきさんのすきな
わらびもちをかってきました。
きょうはゆうはんのあとでお茶をいれて、
一緒にこれをたべよう。
それから、ゆっくりお話するんだ。
パパやママや先生にもまだないしょのこと。

………あれ?
衣舞ちゃん。
お家から出て来たの?
どうしてとしあきさんといっしょなの?

なぜだか、わたしはすぐにひきかえして
夕方まで公園にひとりですわっていました。
わたしのぶんのわらびもちは
おなかがいっぱいだから、といって
としあきさんにあげて
その日はひとりで早くやすみました。
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